これはこの前の土曜日のこと。
借りていた本を図書館へ返しに行くべくU9に乗り込んだ。
ちょっと行ったところで男性が乗り込んできた。
言うまでもないかもしれないが、一応書いておくと、
ベルリンには改札がないので、
検札は電車内で抜き打ちで行われる。
向こうからすればキセルを現行犯で
取り締まらねばならないわけで、
普通は自分の素性がそれと分からないよう、
何食わぬ顔をして乗り込んできて、
ドアが閉まった段階で「乗車券ビッテ」と言ってくる。
だが、場合によっては目つきや顔つきで、
乗り込んできた瞬間に、ああ、こいつは検札だな、
と分かることがある。
この日がそうだった。
さて、なぜ彼が検札だと分かったかと言うと、
入ってきた瞬間に自分に目を付けてきたのを感じたから。
しかし案ずることはない。
別にキセルしているわけではないのだから。
財布からゼメスターチケットを出して待っていた。
するとこれも案の定、身分証を持っているか聞かれた。
これまた一応書いておくと、
この車内検札のやり方にも個人で差がある。
自分の場合は7割くらいかな、
ゼメスターチケット(学生証でもある)の提示だけで済む。
だが中には、そして顔に思いっきり
「我、人種差別主義者なり」と書いてある人は特に、
身分証の提示を要求してくる。
「これ本当にお前のか?」というわけだ。
ドイツの大学に学籍を置こうとすれば
パスポートから住民票から保険等々、
ありとあらゆる個人情報を提供せねばならないわけで、
学生証こそ最強の身分証明のはずだが、
ベルリンの大学の学生証は紙にカラー印刷されただけのもの。
写真もなく、貸し借りされかねないため、
「身分証またはパスポートを携帯のこと」という
付帯つきである。
さて、では何を持っていればよいか、である。
「身分証」。自動車免許とかがあればいいのかもしれないが、
自分は持っていないので良く分からない。
想定されているのはドイツ人が持っている「身分証」のことだろう。
これは財布にも入るサイズで、
ドイツ人は常にこれを持ち歩くよう義務付けられていたと思う。
後述するが、この身分証を申請するには
ドイツ国籍が必要なため、外国籍者にこれは無理。
「パスポート」。残るはこれのみ、となるが、
ドイツでパスポートを常に持ち歩くなんて結構危険である。
落とす等紛失の可能性もあるし、
何となく気がかりでストレスにもなる。
数年前にBVGの窓口に行って尋ねてみたところ、
その時はパスポートのコピーを持っていればOK、
と言われたので、自分はそれを財布に入れていた。
さて、話は本線に戻る。
検札に身分証(パスポートのコピー)を見せた。
すると彼がこんなことを言い出した。
「このコピーがオリジナルのコピーであることを
証明するための印が押されていないので、
これは身分証明として有効ではない、次の駅で降りろ」と。
今まで何年これでOKだったと思ってんだ、と、
心の中では思ったが、口にはやんわりと、
今までは有効でしたよ、なんて言ってみても、
向こうは聞く耳持たず。
これは電車を降りてもなお、だった。
電車内でこういう時、何が辛いかって言えば、
周りが一斉にこっちを見ること。
それも思いっきり非難の目で。
その剣幕といったらない。
似たような状況には、スーパーとかで
外に出ようとしたら防犯ブザーが鳴ったときが挙げられる。
今買ったばかりのものしか持っていないというのに。
向こうのセキュリティの人が来て、
何かバーコードをごしごし擦って、
そうしたらそのまま通って行けたが、
その間の人々の目の冷たさったらない。
いや、もうあれは冷たいと言うより、
憎悪に燃えて、むしろ熱いくらいである。
グッサリ刺さるね。
で、スーパーの防犯ブザーの過敏な反応は
実はよく見る光景でもある。
そして、よく見るだけによく分かる。
その場にいるのがドイツ人だと笑い話なのに、
いわゆる「外国人」だと上記の常軌を逸した反応になる、と。
「静かな差別」とか「受動的差別」とか言われる現象であるが、
それはドイツの人々の間に物凄くよく浸透しているのが分かる。
彼らは心のどこかで「外国人」=「犯罪者」だと思っていて、
こういうことが起こるや、それ見たことか、とか、
やっぱり、とか、実際には多分それ以上にやや憎しみの強い
感情を抱くのだろう。
かくして車両内老若男女すべての視線を背に電車から降りた。
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