まず最初に言っておかねばならないのは、
この航空券はどういう見方をしたって安いということ。
シンガポール航空とか安さで有名な所と比べたって、
下手したら10万円くらい安いのだ。
それと、しかしだからと言って、以下の話は
安いから悪いものなんだ、という意見を言わんとしているのでもない。
では何なのかと言うと、どちらかと言えば
単に運が悪かったというような話だ。
おそらくは最初の2時間のフライトが良すぎたのだ。
第2ラウンド、モスクワ-成田間、9時間の旅は
期待とともに始まった。
今回の飛行機は前のより大型、45列で2-4-2の座席数。
最後尾の列だけ2-3-2だったっぽい。
その3の所に腰かけた。
やはり3席独占のようだ。
それだけではない。
今度の飛行機にはテレビだって付いている。
前回のより一段グレードアップした設備だ。
もうこれは最高の9時間になりそうな予感がするわけ。
それが狂い始めたのは、
そんな自分の元に一人の客室乗務員が来て
こんなことを言いだした時だった。
「すみませんが、ここがあなたの指定の席ですか?」。
当たり前だ。
チケットの半券を出して…
と思ったら人の答えを待たずどこかへ消えた。
仕方がないから後ろの待機室まで行って
その半券を示し、ほらこの通り、と話をする。
これで話は片付いたと思っていたのだが、
その10分かそこら後に別の客室乗務員が来て、
自分が座っている席は客室乗務員用のところだから、
場所を移動してほしいと言う。
もっといい席を前の方に用意しましたので、
何て言われたら、え、もしかしてビジネスクラス?
とかとも思ってしまう。
さすがにそんな甘い話はないにせよ、
確かに自分の座っていた席の頭上には
カーテンがかかるようになっていて、
ちょっと雰囲気が違っていることは分かっていたし、
そもそも頼まれたら席を移るくらい普通するだろう。
別に構いませんよ、なんて返事をしてついていく。
着いた先はエコノミーの一番先頭の席だった。
それの左側のところ。
ここには前に席がない。
すなわちテレビがない。
暗雲が立ち込めてきた。
(ちなみにテレビは離陸後しばらくして
ひじ掛けの下にあることを見出した。一言説明が欲しい。
下手したら最初に飲み物が来るまで気づかなかった
可能性もあるじゃないか)
ちょっと、え、と思ったが、
前に座席がないなら足は伸ばし放題だし、
これはこれで悪くないかとも思うことにした。
移動してきた身なので頭上のキャビネットは埋まっていて、
荷物は少し無理をしないとすべてを席に乗せられない。
どうせスペースがあるのだし、とナップザックは床に置く。
雪のせいで離陸は1時間遅れ。
本当だったらこれが最大の難点になるはずだ。
がこんなことは全く些細なことにすぎない。
離陸直前になって客室乗務員が来て
荷物は下に置くな、と何か今度は命令口調で言ってきた、
ん、要求を聞いたらもうさっきと態度が変わるのか?
まあ、でもこれも軽く流して荷物は席に上げる。
さあ、いよいよ離陸だ。
…と客室乗務員が一人来て、自分の前に座った。
そこはそういう席なのだった。しかも向かい合わせ。
結構気まずい。
客室乗務員は足をこっちに伸ばしてくる。
仕方がないから自分は足を脇にずらした。
もうこの時点でだいぶ快適ではない、むしろ窮屈だ。
しかしさらに、しばらくしたら今度はスカートの短さを気にし出した。
その客室乗務員は40か下手すると50歳くらいに見える。
見てねーっつーの。
なんだこの緊張の高め方は。
どうにもこうにもならないので窓の外へ顔をむける。
大雪だと書いたように、外は雲だけ、真っ白の空間。
何も見えない。つまらない。
これをどれくらい続けたのだろう。
飲み物の時間、すなわち彼女が目の前を立ち去るまでだ。
その頃にはもう気づいていたことだが、
そこの席というのは脱出口があるところ。
外の空気の音がおそらくだが一番聞こえる。うるさい。
常時ゴーゴーいっている。
これはどの辺に快適さを見つけたらいいものか。
(そんなところからテレビと机の発見につながった皮肉)
これは別に機内を移動できたわけではないので
もしかすると他の席もそうだったか知らないが、
心なしかちょっと寒い気もする。
ストレスのせいで体温が下がったのか?うーむ。
ここで1つ、飛行機慣れしている人は分かるかもしれないこと。
飲み物、機内食は基本前の方から支給していくため、
小さい子供を連れた親や家族は、
子供になるべく早くそれらを与えようと、
前の方に席を予約することがある。
このフライトもそうだった。
自分の斜め前に相当する最前席には
小さい子供2人を連れた夫婦が座っていた。
子供が引っ切り無しに騒いでいやがる。
いや、とはいえ、こっちはドイツのガキんちょの騒がしさで
耐性あり。これくらいでは動じない。
左に右に色々うるさい。
でも子供は仕方ないのだ。
機内食が相変わらず美味しかったことだけが救いだったが、
それを食べる机は小さかった。
収納式の机は座席に付いているやつより一回り小さいようだった。
そして前に何もないといざという時の支えもないので、
結構緊張しながら食べねばならなかった。
ちなみにテレビだが、特に面白そうでもなかったが、
それ以上に、きちんと正面に来ない。
背筋を継続的に斜め下に傾けていないといけないので、
割とすぐに見切った。
じゃあ読んでた論文の続きでも…
あ、なんか暗い。
そうか夜の照明を落とす時間か。
電気、この席にはそんなのは付けられない構造の場所だ。
機内が暗くなったらそれに従う他ないのだった。
あまり眠れる気もしなかったが、何もすることがない。
寝ようか。
ここでもまた問題発生。
自分の前はスペースが空いている。
ここはエコノミー最前列、すなわち向こうがビジネスクラス。
その間にはトイレがある。
それゆえトイレ待ちの人は自分の前で待つ。
要はひっきりなしに人が自分の前に来るのだ。
おちおち寝てもいられない。
他に出来ることなんていったら
前の多少大きなモニターに映し出されるデータ、
今飛行機がどこを飛んでいるかとか、速さとか、
外は何度かとか、到着までの時間とか、
そういったものをボーと見ているくらいだったが、
人が自分の真ん前に来たらそれも見えなくなる。
そうこうしている内に座っている事に飽き出した子供らが
ビジネスクラスの方からこっちに侵攻を開始、
目標は自分の斜め前の子供たちだ。
子供は子供の声に反応する。
それに加え、自分の隣に座っていた女性が、
振り返るガキんちょがいれば手を振って、
こっちに誘導しているのだ。
この人も暇なんだろう。
ともあれこっちに来たって、
席に遊んだりできるスペースなんてあるはずはない。
あるとすればそれは、自分の前だ。
というわけで自分の前の空間が子供たちの遊び場、
そして彼らの親たちの井戸端会議場へと化すのだった。
子供は何でも触りたがる。
脱出口が開かないもんかとこんなに思ったことはない。
こんなのが9時間。
完璧だったはずの計画はどこが悪かったか。
きっと最後尾から2列目を選んでおけば良かったのだろうか。
今こうやって書いているとそんなことはないが、
この9時間の直後はもう2度とアエロフロートには乗るもんか、
と相当本気で思ったものだった。
次に乗るのはロシア語で皮肉が言えるようになったらかな。
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